中国「会社法」改正のポイント
2023年12月29日、中国の第14期全国人民代表大会常務委員会において、会社法の改正が可決された(施行日は2024年7月1日)。中国会社法は、1993年12月の制定後、計6度の改正が行われているところ※1、今回の改正により、全13章218条から全15章266条となり、大幅な改正が行われた。内容としても、国有企業の組織構成、資本金払込期限等の改定、小数株主の権利保護の強化、支配株主と経営陣の義務と責任の強化、企業統治をめぐる機関や制度の再構築など、重要な改正が含まれている。
本稿は、外資企業が注意すべき会社法改正のポイントを簡単に紹介する。なお、特に表記しない場合、引用条文は新会社法の該当条文を指すものとする。
■ 資本金払込期限等の改定
会社法(1993年)第27条では、有限責任会社の設立登記までに資本金を全額払い込むことが原則であったが、2005年改正では、最低資本金の引下げや資本金の分割払いが認められ、さらに2013年法改正では、最低資本金や払込期限の規制が撤廃され、定款において資本金の払込期限を長期設定することが可能となった。このように、資本金規制が撤退されることで、会社設立が容易になる反面、会社の資本金が振り込まれないことで、取引先や債権者の保護が不十分となる等の問題が生じていた。
新会社法では、有限責任会社の株主に対し、会社設立日から5年以内にその引き受けた出資額の全額を払い込むことが求められている(第47条第1項)。この規制は、新会社法の施行前に設立されている既存の会社にも適用される(第266条第2項)。
なお、引き受けた資本金が定款に定める上記期限までに全額払い込まれない場合、当該株主は、①資本金を全額払い込むほか、会社に生じた損害を賠償する責任を負い、②会社から支払いを催促され、60日を下回らない指定期間を経過してもなお資本金を払い込まない場合、会社の通知により、未払込払部分に関する株主としての権利を喪失するとされている(第49条第3項、第52条)。
さらに、新会社法は、資本金払込期限について、期限の利益喪失制度を新たに設けている(第54条)。すなわち、会社が弁済期間の到来した債務を弁済できない場合、会社又は弁済期間が到来している債権の債権者は、株主に対し、払込期限が到来していない出資引受金額を払い込むよう求めることができる。
■ 会社機関構成の柔軟化
現行会社法における会社機関は、株主会・董事会(小規模会社は執行董事)・監事会(小規模会社は監事)とされている。
新会社法では、定款で定めることにより、監事会・監事に代わり、董事会において監査委員会※2を設置することができるとされている(第69条、第121条)。監査委員会の構成員について、有限責任会社の場合、董事会構成員のうち従業員代表を監査委員に選任することができ、股份有限公司の場合、3名以上の構成員を要し、かつ、過半数の委員は独立性※3を有しなければならないとされている。
さらに、小規模会社又は株主数が少ない会社の場合、株主全員の同意を経て、監事を設置しないことも認められている(第83条)。
新会社法により、上場会社以外の会社も監査委員会を設置でき、董事会に監督機能を持たせることができるようになった。法制度としては、経営に関する知見や情報を有する者による実質的な監督が期待されているが、導入を検討する企業においては、自己監督とならないような対応が求められる。
■ 従業員による民主的管理体制の拡充
新会社法は、会社・株主・債権者のほか、従業員の利益保護も目的に追加し(第1条)、会社には従業員代表大会を基本形式とする民主的な管理制度を置くものとしている(第17条2項)。従業員数300人以上の有限責任会社の場合、従業員代表監事が設置されている場合を除き、従業員代表董事※4の設置が求められる(第68条1項)。
中国では、労働組合が企業における民主管理制度の基本形式となるため、新会社法施行に伴い、これまで労働組合が設立されていなかった会社においても、従業員が労働組合の設立を求める可能性がある。会社及び株主は、労働組合の設立を拒否してはならず(労働組合法第3条)、労働組合設立により、相応の対応を求められるようになる※5。
なお、実務上、中外合弁会社の董事会に従業員代表董事を設置しているケースは多くないが、新会社法施行に伴い、従業員数300人以上の会社は董事会の構成を変更する必要が生じる。外国側の株主としては、会社の支配権を確保するため、出資比率に応じて、任命する董事の人員を追加するなどの対応を検討すべきである。
■ 第三者に対する持分譲渡の改正
現行法上、有限責任会社の株主は、第三者に持分の全部又は一部を譲渡しようとする場合、他の株主に2度通知する必要がある(持分譲渡に同意するか否かを判断するための通知及び既存株主の優先買取権を保護するための通知、現行会社法第71条)。
新会社法では、第三者に持分譲渡を行う場合、他の株主の同意を要せず、当該株主の優先買取権を保護するため、譲渡条件※6を通知すれば足りるとしている(第84条)。
■ 小数株主の権利保護の強化
現行法上、会社に5年間連続して利益が生じているにもかかわらず利益配当を行わない場合や、会社の合併若しくは分割又は主要な財産の譲渡等を実施する場合、これらの行為に関する決議に反対する株主は、会社に対し、持分の買取りを請求することができる(現行会社法第74条)。
新会社法は、これらに加え、支配株主が株主権を濫用し、会社又はその他の株主の権利に重大な損害をもたらした場合、他の株主は会社に対し、合理的な対価で自らの保有持分の買取りを請求することができるとしている(第89条3項)。
上記規定により、他の株主との間で紛争が生じた場合や、会社の経営方針に反対するような場合に、撤退に関する選択肢が増えるものと考えられる。
また、新会社法は、株主の知る権利として、株主名簿及び会計証憑の閲覧権及び複製権を明文化し、株主が会計事務所や法律事務所等に対し、これらの行使を委託できる旨も規定している(第57条)。
■ おわりに
会社法改正により、外資系企業も大きな影響を受けることになるため、改正法の内容を詳細に確認しておく必要がある。
特に、外商投資法(2020年1月1日施行)により、日系企業を含む外資企業は、猶予期間である2024年12月31日までに会社法に沿った会社組織機関を構築する必要がある。そのため、現時点から、改正会社法に沿った対応(中国現地法人の定款修正、組織機関の再構築等の体制整備、持分譲渡の検討等)を進めておく必要がある。
なお、今後、改正会社法の施行に合わせて、司法解釈、実務指針及び関連措置の新設や改正も想定されるため、引き続き今後の動向注視する必要がある。
※1改正は1999年、2004年、2005年、2013年、2018年、2023年(今回)に行われており、そのうち2005年と2023年に大きな改正が行われている。なお、新会社法の全文は、以下のURLに掲載されている。http://www.npc.gov.cn/npc/c2/c30834/202312/t20231229_433999.html
※2中国語表記は「審計委員会」である。なお、監査委員会は、「上場会社統治規則」(証監発[2002]1号、2018年改正)において初めて定められた。その後、国有企業の董事会における専門委員会の設置も推奨され、そのうち監査委員会は社外董事により構成するものとされている(「国有企業の法人統治構造の更なる改善に関する指導意見」、国弁発[2017]36号)。
※3過半数の委員は、董事以外の職務に就いてはならず、かつ、会社との間で独立した客観的判断に影響を及ぼす可能性のある関係を有してはならないことを指す(第121条2項)。
※4従業員代表董事は、会社従業員が従業員代表大会、従業員大会又はその他の形式を通じて民主的選挙によって選出される。
※5例えば、会社は労働組合に対し、経費の支給及び設備の提供をしなければならない(労働組合法第43条、同第46条)。さらに、労働契約を解除する場合、事前に労働組合に通知し、その意見を検討しなければならない(労働契約法第43条)。
※6譲渡条件には、持分譲渡の数量、価格、支払方法及び期限等の事項が含まれている。