中国「渉外民事関係法律適用法」適用の若干問題に関する解釈(二)
中国「渉外民事関係法律適用法」(以下「渉外適用法」という)は、渉外民事関係の準拠法を規律する法律であり、2011年4月1日から施行されている。同法では、中国の人民法院が受理した渉外民事事件について外国法が適用される場合、管轄機関(人民法院、仲裁機関、行政機関)又は当事者が当該外国法の調査を行うものとされている (渉外適用法第10条1項)。もっとも、外国法に対する調査ルートや調査プロセス、調査結果に対する審査や認定基準等について、これまで統一的な規定は存在しなかった。※1
この問題を解決するため、2023年12月1日、最高人民法院は、「渉外民事関係法律適用法」適用の若干問題に関する解釈(二)」(法釈【2023】12号、2024年1月1日施行、以下「司法解釈(二)」という)を公布した。
司法解釈(二)は全13条からなり、外国法の調査主体、審査手続及び解釈・適用に関する認定基準等を明確にしている。本稿ではその概要を簡単に紹介する。なお、特に表記しない場合、引用条文は司法解釈(二)の該当条文を指すものとする。
■ 外国法の調査主体及び調査ルート
(1)調査主体
渉外民事関係に適用される外国の法律は、管轄機関(人民法院、仲裁機関、行政機関)による職権調査のほか、当事者が外国法の適用を選択したときは、当事者が当該国の法律を提供しなければならない(渉外適用法第10条1項)。そして、当事者が正当な理由なく人民法院に指定された期限を過ぎても外国法の資料を提供しない場合、外国法を調査により明らかにできないと認定され、中国法が適用される可能性があった。※2
この点について、司法解釈(二)は、人民法院が当事者に外国法の提供を求めた場合、当事者がこれを提供しなかったことだけに理由として外国法を調査により明らかにできないと認定してはならないとした(第2条3項)。
(2)人民法院による調査ルート
司法解釈(二)は、「国際商事法廷(CICC)の設立についての若干問題に関する規定」(法釈【2018】11号、以下「CICC規定」という)※3 第8条1項と同様に、人民法院による外国法の調査ルートとして、以下のような規定を設けている(第2条1項)。
1. 当事者に提供を求める。
2. 司法共助により当該外国の中央機関又は主管機関に提供を求める。
3. 最高人民法院を通じて当該外国の中国大使館・領事館又は当該外国の中国大使館・領事館に提供を求める。
4. 最高人民法院が調印又は参加している法律調査協力協定の相手方に提供を求める。
5. CICC国際商事専門家委員会の専門家に提供を求める。
6. 法律調査サービス機構又は中国の国内外の法律専門家に提供を求める。
7. その他の適切なルートにより提供を求める。
下線部分は、これまでに規定されていなかった内容であり、司法解釈(二)においてこれらの内容を追加することで外国法調査ルートの拡充がなされた。
2.について、CICC規定では、司法共助ルートを通じて外国法の調査をしようとする場合、中国との間に共助協定等を締結している外国の中央機関に限って外国法の資料の提供を求めることができるとされている。これに対し、司法解釈(二)では、司法共助協定等を締結していない場合であっても、「中央機関」はもちろん、「主管機関」に対しても提供を求めることができることになった。
3.について、外国法の調査を外交ルートで行う場合は、最高人民法院を通じて行われることが明らかになった。
4.について、例えば、中国の最高人民法院とシンガポールの最高裁判所は「法律調査に関する協力覚書」を締結しているため、司法解釈(二)によって、シンガポール法の内容及び解釈等に関する提供を求めることができるようになった。※4
5.について、これまではCICCの手続にのみに適用されていたが、司法解釈(二)の施行に伴い、中国全土の人民法院で専門家を活用できることになった。CICCには中国語堪能な法律専門家が多数在籍しているため、外国法の調査が容易になると考えられる。
なお、外国法を適用して審理する事件について、外国法を調査により明らかにすることができない場合、人民法院は明らかにすることができない理由を明記しなければならないとされている(第10条)。
■ 外国法の提供・審査手続及び解釈・適用の認定基準
(1)外国法の提供・審査手続
当事者が外国法の調査結果を提供する場合、当該外国法の具体的な内容、その取得ルート、外国法の発効状況、係争事件との関連性等について説明する義務があり、判例法を採用する外国の場合、かかる判例の全文も提供する必要がある(第3条)。
なお、法律調査サービス機構又は法律専門家が外国法を提供する場合、第3条に定める内容のほか、当該法律調査サービス機構のライセンス証書・当該法律専門家の身分証明書を人民法院に提出するとともに、係争事件について利害関係がない旨の声明書も提出を要するものとされている(第4条)。
関係者から提供された外国法の調査結果について、人民法院は当該調査結果をそのまま採用するものではない。司法解釈(二)では、調査結果の適正さを確保するため、以下のような審査手続が規定されている。
1. 外国法の調査に関する資料は、すべて法廷に顕出されなければならず、人民法院は、外国法の内容及びその理解と適用について当事者の意見を聴取しなければならない(第5条)。
2. 人民法院は、必要に応じて、職権又は当事者の申請により、法律調査サービス機構又は法律専門家に対し、出廷して尋問に応じるよう求めることができる(第7条1項)。
(2)外国法の解釈・適用の認定基準
人民法院が外国法の内容、解釈及び適用(以下「外国法の内容等」という)の認定を行うにあたっては、以下のとおり対応するものとされている(第8条)。
1. 当事者が外国法の内容等について異議がない場合、当該外国法を当事者の主張する内容で認定することができる。
2. 当事者が外国法の内容等について異議を申し出た場合、必要に応じて職権で追加調査を行い、又は当事者に追加の資料提供を求めることができる。追加調査又は追加の資料提供を行った後も、なお当事者が異議を有する場合、人民法院は審査したうえで外国法の内容等を認定する。
3. 中国の人民法院が下した確定判決において外国法の内容等について既に判断がなされている場合、当該外国法の内容等の認定については、それを覆すに足りる反証※5のある場合を除き、既になされた確定判決に従う。
なお、②について、当事者は、異議を申し出る際にその理由を合わせて説明しなければならず、人民法院は当事者が説明した理由も考慮して、職権により外国法の追加調査をするか否かを決定することになる。
■ おわりに
司法解釈(二)では、外国法の調査費用について、当事者間で約定がある場合にはその約定に従うとされているため(第11条)、外国企業が中国企業と取引を行う際には、契約書において、事前に調査費用についての合意をすることが望ましい。
また、司法解釈(二)では、外国法の調査ルートが拡大されていることため、今後、人民法院が「調査により明らかにすることができなかった」という状況が減少し、外国法が適用されるケースが増える可能性があると考えられる。
※1 なお、外国法の調査ルートについては、最高人民法院「民法通則の貫徹執行に関する若干の意見(試行)」(法【弁】発【1988】6号、2021年1月1日撤廃)第193条が、当事者による提供、外交ルートによる提供、中国又は外国の法律専門家による提供といくつの方法を定めていた。
※2 渉外適用法第10条2項及び「渉外民事関係法律適用法」適用の若干問題に関する解釈(一)」(2012年12月29日公布、2013年1月7日施行、2021年1月1日改正施行)第15条2項を参照されたい。
※3 http://gongbao.court.gov.cn/Details/c854ac611efb056a2e982eca91803c.html
※4 最高人民法院民事第四法廷の担当者による司法解釈(二)についての記者質問への回答を参照されたい。URL:https://www.court.gov.cn/zixun/xiangqing/419052.html
※5 例えば、外国法が改正された証拠等が考えられる。