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ホームページ > 論文/書籍 > 法律考察 > 中国「法定退職年齢の段階的な引上げに関する弁法」

中国「法定退職年齢の段階的な引上げに関する弁法」

 2024-10-30575

2024年9月13日、第14期全国人民代表大会常務委員会第11回会議において、「国務院による法定退職年齢の段階的な引上げに関する弁法」1(以下「弁法」という)が可決された(施行日は2025年1月1日)。

弁法により、男性・女性の法定退職年齢が引き上げられるとともに、施行日以降、「国務院による高齢者・障害者の幹部の配置に関する暫定方法」および「国務院による労働者の定年退職、退職金に関する暫定弁法」(国発[1978]104号、以下併せて「暫定弁法」という)における定年退職年齢に関する規定は適用されなくなる。

弁法は計9条からなり、主として法定退職年齢の段階的引上げ年金保険の納付期間の延長および定年退職年齢の柔軟な調整・実施などが規定されている。

本稿では、弁法の重要と思われるポイントを簡単に紹介する。なお、特に表記しない場合、引用条文は弁法の当該条文を指すものとする。

法定退職年齢の段階的引上げ

暫定弁法は中国の法定退職年齢に関する現行規定であり、1978年より施行されている。暫定弁法および「国家規定に反する企業従業員の事前定年退職の制止および是正についての問題に関する通知」(労社部発[1999]8号)第1条1項によると、勤続年数10年以上、かつ、以下の条件を満たした場合、定年退職となる。

1.男性:原則として満60歳

2.女性:幹部以外の場合は満50歳、幹部2の場合は満55歳

3.坑内労働、高所労働、高温労働、過酷な肉体労働など特殊な業務:男性満55歳、女性満45歳

4.医院が労働能力を完全に喪失したと診断し、労慟鑑定委員会の確認を得た場合:男性満50歳、女性満45歳

5.業務により障害を負い、医院が労働能力を完全に喪失したと診断し、労働鑑定委員会の確認を得た場合

弁法は、2025年1月1日より15年間かけ、法定退職年齢を段階的に引き上げるものとしている。具体的には、男性および上記2のうち女性幹部については、法定退職年齢を4ヵ月ごとに1ヵ月ずつ引き上げ、2039年までにそれぞれ満63歳(男性)と満58歳(女性管理職)とし、法定退職年齢が満50歳の女性については、2ヵ月ごとに1ヵ月ずつ引き上げ、2039年までに満55歳とされる※3(第1条)。

なお、上記3の特殊な業務に従事する場合の定年退職年齢については、弁法に規定されていないものの、今後、関連規範を整備するものとされている(第8条)。

年金保険の納付期間の段階的引上げ

社会保険法(2018年改正)第16条によれば,基本養老保険(基礎年金)に加入する個人は、法定退職年齢に達した時に累計保険料納付が15年以上の場合には、月々基礎年金を受け取る旨が規定されている。

これに対し、弁法は、2030年1月1日から2039年まで、基礎年金を受給するための最低納付期間を、現行の15年間から20年間に、毎年6ヵ月ずつ段階的に引き上げるものとしている。また、法定退職年齢に達した従業員が最低納付年限に満たない場合、納付期間の延長または一括納付により当該年限に達し、基礎年金を受け取ることができる旨が規定されている(第2条)。

柔軟な定年退職制度

基礎年金の最低納付期間に達した従業員は、自らの意思で早期退職を選択することができる(第3条)。ただじ、退職の前倒しは最長3年に限り、かつ、早期退職時の年齢は原法定退職年齢(女性は非管理職50歳と幹部55歳、男性は60歳)を下回ってはならないものとされている。

一方、定年退職年齢の延長は、勤務先と従業員との合意が必要になる(第3条)。労使双方の合意があれば、最長3年間、退職年齢を延長することができる(同条)。つまり、労使双方の合意により、男性は66歳まで、女性は61歳まで定年退職年齢を延長することができる。

定年退職後の再雇用

定年退職年齢に達した場合の再雇用について、実務上は、労働者との間で「労働契約」ではなく、「労務契約」などを締結するケースが多い(この場合、使用者は、年次有給休暇や経済補償金の支払いなど、労働法に基づき課せられる義務を負わない)。

この点について、弁法は、法定退職年齢を超える労働者を雇用する場合、使用者は、労働報酬、休息休暇、労働安全衛生、労災保障等の基本的権利を保障する必要がある旨を規定している(第6条)。もっとも、定年退職後の再雇用が、労働法上どのように位置づけられるかは明確になっておらず、残された課題となっている。

おわりに

弁法は、本稿に記載した法定退職年齢および年金保険の納付期間の引上げのほか、年金保険のインセンティブメカニズムの整備、定年退職まで1年未満の場合の失業保険の給付制度、シルバーサービスシステムの構築および包容的児童サービスシステムの発展などの課題について、原則的な方針も設けている。弁法の実施により、中国の労働市場における問題(少子化に伴う労働力不足など)の解消が期待されている。

一方、法定退職年齢や年金納付期間の段階的引上げに伴う実務上の煩雑さ(例えば、従業員の性別、生年月日とポジションなどにより、法定退職年齢や引上げ年数が異なる場合がある)のほか、柔軟な定年退職制度に伴う従業員ごとの退職処理手続への対応、定年退職後の再雇用について、労働関係が認定されたり、労災責任が生じたりするリスクも懸念される。弁法の施行は、企業の労務管理に大きな影響を与えることから、関連規定の制定や実務上の運用について、動向を注視する必要がある。

 

 

※1 http://www.npc.gov.cn/npc/c2/kgfb/202409/t20240913_439534.html。

 

2 「幹部」の判断基準について、統一的な規定や基準は存在しない。公務員の場合、公務員法に従い判断される。国有企業の場合、国家経済貿易委員会・人事部・労働社会保障部が2001年に連名公布した「国有企業の内部人事・労働・分配制度改革の深化に関する意見」(国経貿企改[2001] 230号)第2条は、概ね次のように定めている。[企業における行政職階を廃止する。企業は、国家機関における行政職階を準用せず、国家機関における幹部の行政職階による待遇も享受しない。従来の「幹部」と「労働者」の区別をなくし、身分管理から役職管理に移行する。管理職で働く者を管理人員とする。役職が変更された場合、収入およびその他の待遇は新しい役職に応じて調整する。なお、裁判実務上、民間企業の女性退職年齢に関する紛争事件などのケースでは、「幹部」に該当するか否かについて、労働契約に明記された従業員の「役職(中国語:)」で判断され,例えば、「管理職」や「技術系職務」の場合、「幹部」として認定されるケースが多い(例えば、上海市第一中級人民法院[2020]滬01民終9063号事案など)。

 

※3 弁法別紙「定年退職年齢比較表」によると、弁法の施行に伴い、2025年1月1日から2039年12月末日までの過渡期間において、1965年1月から1976年8月まで生まれの男性、1970年1月から1981年8月まで生まれの女性幹部、1975年1月から1984年10月まで生まれの非管理職女性について、現行の定年退職年齢が段階的に引き上げられることになる。例えば、1975年1月生まれの男性の場合、弁法の施行により、法定退職年齢は62歳7か月(2037年8月)となる

 



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