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ホームページ > 論文/書籍 > 法律考察 > 「食品・医薬品の懲罰的損害賠償紛争事件の審理に関する司法解釈」

「食品・医薬品の懲罰的損害賠償紛争事件の審理に関する司法解釈」

 2024-09-27448

中国「食品安全法」及び「薬事法」は、食品安全基準に合致しない食品や偽薬品・不良薬品を生産し、又は食品安全基準に合致しない食品や偽薬品・不良薬品であると明らかに知りながらこれを取り扱った場合、消費者は生産者又は販売者に対し、損害賠償請求のみならず、代金等の10倍又は生じた損害の3倍(懲罰的損害賠償)のいずれかの支払いを求めることができる旨を規定している1

ところが、かかる懲罰的損害賠償制度を営利目的で利用するため、食品安全基準に合致しない食品や偽薬品・不良薬品であることを知りながら、短期間で大量に購入する事例が増えてきている。かかる行為については、正常な消費行為(消費者)に該当するか、また懲罰的損害賠償の適用対象になるかが問題となるところ、この点に関する判断基準が明確でないため、裁判紛争となった場合の結果が異なる場合もあった。

かかる問題に対応するため、2024年8月21日、最高人民法院は、「食品・医薬品の懲罰的損害賠償紛争事件の審理における法律適用の若干問題に関する解釈」(法釈【2024】9号、施行日は2024年8月22日、以下「法釈」という)を公布した※2。

法釈は計19条からなり、懲罰的損害賠償の認定方法、食品のラベルや取扱説明書の瑕疵に関する認定ルールなどを明確にしている。

本稿では、法釈の特に重要と思われるポイントを簡単に紹介する。なお、特に表記しない場合、引用条文は法釈の当該条文を指すものとする。

懲罰的損害賠償の認定方法

まず、法釈は、購入した食品が食品安全基準に合致しないことを理由とする懲罰的損害賠償の請求は、購入者が個人又は家庭生活の消費需要により購入した場合に限られる旨を明らかにした(第1条1項)。

次に、食品安全基準に合致しない食品であることを知りながら※3購入したことを証拠により証明できない場合、購入者の実際の支払額を基数として10倍の懲罰的損害賠償を認定する(第1条2項)。これに対し、①購入者が食品安全基準に合致しないことを知っていた場合や、②当該事情を知りながら短期間に複数回購入し、同一の生産者又は事業者に対して複数回訴訟提起を行うような場合、人民法院は、生活消費において合理的に必要となる範囲で、購入者の請求を認めるものとされている(第12条1項、第14条1項)。

そして、①の場合、生活消費において合理的に必要となる範囲の判断にあたっては、賞味期限や一般購入者の通常の消費習慣などの要素を総合的に考慮し、②の場合は、①記載の事情のほか、購入者の購入頻度※4などの要素を総合的に考慮するものとされている(第12条2項、第14条2項)

食品のラベルや取扱説明書の瑕疵に関する認定ルール

食品安全法では、包装食品のラベルや取扱説明書(以下「ラベル等」という)に、食品の成分又は配合表、品質保証期間、保存条件、使用した食品添加物の中国国家基準における通用名称など(食品衛生法第67条1項)のほか、食品添加物の使用範囲、使用量、使用方法を明記しなければならないとしている(同法70条)。

もっとも、食品ラベル等の内容が食品の安全性に影響を及ぼさず、かつ消費者の誤解を招くことがない瑕疵については、懲罰的損害賠償の制度が適用されないものとされている(食品安全法第148条2項)。

この点に関し、「瑕疵」の判断基準が明確でないことから、「ラベルに瑕疵がある」などの理由により、営利目的で大手スーパーなどの事業者に懲罰的な損害賠償を請求する事例が全国各地で相次いでおり、大きな社会問題になっていた。

そこで、法釈は、食品ラベル等の「瑕疵」に関する認定基準を詳細に規定し、裁判における判断基準を統一した。具体的には、次のいずれかの状況に該当する場合、食品ラベル等が食品安全基準に合致していないことを理由に懲罰的損害賠償が請求されたとしても人民法院はこれを支持しない旨が規定された(第7条、第8条)※5。

1.食品ラベル等に瑕疵が存在するものの、食品の安全性に影響を与えず、かつ、購入者に誤解を生じさせないこと(購入者が瑕疵の存在を知っているか否か、一般購入者に誤解を生じさせるか否か等の事実に基づいて判断する)。

2.文字、記号、数字のサイズ、フォント、高さが基準に沿っていないこと、又は外国語のサイズ、高さが中国語を超えること。

3.誤字、重複、脱字、繁体字、外国語の翻訳ミスなどがあるものの、購入者に食品安全について誤解を生じさせないこと。

4.容量、規格についての表示方法と仕様が基準に沿っていないこと、食品、食品添加物および原材料に使用される通称や略語等が基準に沿っていないこと、栄養成分表、原材料表の順番、数値、単位表示が基準に沿っていないこと、又は栄養成分表における数値の端数処理、「0」の限界値、表示単位が基準に沿っていないことは認められるが、購入者に誤解を生じさせないこと。

おわりに

本稿では紙面の関係で記載しなかったが、法釈は、ラベル・標識・説明書に瑕疵はあるものの、食品生産者が救済措置を講じ、かつ、食品の安全性を確保した状態で引き続き販売をすることができる場合、事業者は購入者に返品を請求できる旨を規定しており、事業主に対する一定の保護が図られている(第2条2項)。一方で、無害化処理や廃棄等の措置を講じる必要がある場合、食品安全法や薬品管理法の関連規定に基づいて処理を行う必要がある(同条項)。

法釈は、食品・医薬品分野において、懲罰的損害賠償制度を利用する消費者の行為を保護する一方で、かねてより実務上問題となっていた、営利目的による懲罰的損害賠償制度の利用に対して一定の制限を付する内容を定めている。これによって、食品・医薬品の市場環境が改善することが期待される。

 

 

※1「食品安全法」(2021年改正)第148条2項及び「薬品管理法」(2019年改正)第144条3項。なお、懲罰的賠償額が1,000人民元に満たない場合1,000人民元とする旨規定されている。

 

2https://www.court.gov.cn/fabu/xiangqing/440841.html

 

3この場合の立証責任は事業者(被告側)にある。すなわち、法釈第12条3項は、生産者又は事業者において購入者が食品安全基準に合致しない食品であることを知りながらこれを購入することを主張する場合、証拠によりその主張を証明しなければならないと規定している。

 

※4参考になる事例として、最高人民法院が2023年11月に公表した「張氏と上海の食品スーパーとの売買契約紛争事件」を挙げることができる。当該事例では、購入者が卵の賞味期限が経過したことを知りながら、2日間で2回に分けて計46個を購入し、合計101元を支払っている。購入者は、連続して46回の売買関係があったことを理由に、取引ごとに1,000人民元の懲罰的損害賠償(計46,000人民元)を請求した。これに対し、人民法院は、計46個が生活消費需要の範囲内であることは認めたものの、1個ずつ別々に支払ことが通常の消費習慣に合致しないことを理由に、実際の支払額101人民元を基数として懲罰的損害賠償額(101元の10倍である計1,010人民元)を認容した。
URL:https://www.chinacourt.org/article/detail/2023/11/id/7665409.shtml

 

※5食品生産経営監督検査管理弁法(国家市場監督管理総局令第49号、2022年3月15日施行)第37条2号。


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