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ホームページ > 論文/書籍 > 法律考察 > 「民法典」権利侵害責任編の適用に関する司法解釈(一)

「民法典」権利侵害責任編の適用に関する司法解釈(一)

 2024-11-27167

中国「民法典」(2021年1月1日施行)は、総則、物権、契約、人格権、婚姻及び家族、相続、権利侵害責任という7つの編から構成されている。最高人民法院は、民法典の条文の解釈と裁判における適用基準を統一するため、2020年12月から2023年12月にかけて、担保、物権、婚姻及び家族、相続、総則、契約の編について、それぞれ司法解釈を公布してきた。

2024年9月26日、最高人民法院は、『「中華人民共和国民法典「の権利侵害責任編の適用に関する解釈(一)』(法釈【2024】12号、2024年9月27日施行、以下「本法釈」という)を公布した1

本法釈は全26条からなり、使用者責任の適用範囲と労務派遣関係における権利侵害責任、製品責任の賠償範囲、高所からの投棄物や落下物による損害賠償責任、未成年者の保護者や教育機関の責任に関する規定等を定めている。

本稿では、本法釈の概要を簡単に紹介する。なお、特に表記しない場合、引用条文は本法釈の該当条文を指すものとする。

使用者責任の明確化

まず、民法典第1191条1項は、従業員が業務上の任務の執行により他人に損害を与えた場合、使用者が権利侵害責任を負うものとしている(なお、従業員に故意又は重大な過失がある場合、使用者は当該従業員に求償することができる)。

この点について、本法釈は、従業員が業務上の任務の執行により他人に損害を与え、その行為が犯罪を構成する場合、当該従業員の刑事責任は、使用者による損害賠償などの民事責任の負担に影響を及ぼさないものとしている2(第17条第1項)。

次に、民法典第1191条2項は、労務派遣期間中に、被派遣従業員が業務上の任務の執行により他人に損害を与えた場合、派遣先が権利侵害責任を負い、派遣元に過失があるときは、派遣元が相応の責任を負うものとしている。

この点について、本法釈は、派遣社員が派遣期間中に業務上の任務の執行により他人に損害を与え、被侵害者が派遣元と派遣先のいずれに対しても権利侵害責任を追及した場合、派遣先がすべての責任を負うものとしている。派遣元は、派遣社員の不適切な選定や派遣社員に対するトレーニングの未履行など、過失の範囲内に限って、派遣先と共同して責任を負うものとされている。

陥製品による損害賠償範囲の明確化

民法典第1202条及び第1203条1項は、製品の欠陥により他人に損害を与えた場合、製造者が権利侵害責任を負い、権利を侵害された者は製造者・販売者のいずれに対しても損害賠償を請求できるものしている。

しかし、損害賠償の範囲について明確な規定はなく、これまでの通説は、欠陥製品それ自体は含まれず、契約法に基づき瑕疵担保責任を負うものと解していた※3。民法典の立法過程やこれまでの裁判実務※4においては、欠陥製品それ自体が損害賠償の範囲に含まれるかどうかについては大きな議論となっていた。

この点について、本法釈は、製品の欠陥により買主に財産的損害が生じ、買主が欠陥製品それ自体及びその他の財産損害を製品の製造者又は販売者に対して請求する場合、人民法院は民法典の規定に基づきこれを支持する旨を明確にした(第19条)。

かかる解釈により、製造物責任に対する司法手続において、従前よりも消費者の保護が図られ、訴訟経済にも資することになると考えられる。欠陥製品それ自体が損害賠償の範囲に含まれるかは、理論上引き続き議論の対象となると思われるが、裁判ルールとしてはひとまず判断基準の統一化が図られることになった。

高所からの投棄物・落下物による損害賠償責任

中国では、都市化による高層ビルの増加に伴い、高所からの物の投げ捨てが問題となっている※5。民法典では、高所から物の投棄が禁止されている。また、高所から投棄された物又は建築物上から落下した物が他人に損害を与えた場合、権利侵害者の特定が難しいケースがあるため、民法典は、原則として権利侵害者が責任を負い、具体的な侵害者を特定することが困難であるときは、自ら権利侵害者でないことを証明することができた場合を除き、損害を与えた可能性のある建物使用者※6が例外的に責任を負うものとしている。さらに、不動産管理業者が、安全保障措置を講じていなかった場合、相応の責任を負うものとしている。加えて、権利侵害者を特定するため、公安機関等は、法に基づき遅滞なく調査するものとされている(民法典第1254条)。

本法釈は、不動産管理業者が共同被告となった場合の損害賠償責任の順位及び責任範囲について、以下のような規定を設けている(第24条~第25条)。

1、損害賠償責任を負う侵害者が、弁済能力不足により強制執行を受けてもなお賠償できない場合、必要な安全保障措置を講じなかった不動産管理業者などが、その過失に応じた補充責任を負うよう、判決書に明記すること(第24条)。

2、公安機関等の調査の結果、民事事件第一審の審理終了までに侵害者の特定が困難である場合、必要な安全保障措置を講じなかった不動産管理者が過失に応じて責任を負い、その他の損害は損害を与えた可能性のある建物使用者が適宜賠償すること。

なお、侵害者が特定できた場合、不動産管理業者及び損害を与えた可能性のある建物使用者は、被害者に支払った賠償金を加害者に求償することができる(第25条)。

おわりに

本法釈は、本稿で紹介したほかにも、不法行為の教唆者や幇助者の責任、権利侵害事件における保護者の責任、教育機関による管理責任に関する実体的・手続的規定、自動車交通事故の賠償責任、飼育が禁止される危険動物による損害責任も規定している。

本法釈は、今後、権利侵害責任紛争事件の審理において、裁判実務上の重要な指針となるため、今後も裁判所による本法釈の運用等を引き続き注視する必要がある。

 

 

※1 https://www.court.gov.cn/fabu/xiangqing/443891.html

なお、民法典施行に伴い、最高人民法院は、既存の「民事権利侵害による精神的損害賠償責任の確定に関わる若干問題に関する解釈」(法釈【2001】7号、2001年3月10日施行)、「道路交通事故損害賠償事件の審理における法適用の若干問題に関する解釈(法釈【2012】19号、2012年12月21日施行)及び「医療損害責任事件の審理における法適用の若干問題に関する解釈」(法釈【2017】20号、2017年12月14日施行)を、それぞれ民法典の規定に従って一部修正及び整理しており、これらは2021年1月1日の民法典施行日から改正施行されている。

2 例えば、贈収賄、密輸、知的財産権侵害、脱税などは、法人自身が刑事責任を負担する可能性がある一方で、従業員個人が会社印鑑を偽造して表現代理により詐欺行為を実施した場合、従業員本人が詐欺罪に問われる可能性がある。法釈第17条第1項によれば、このような場合でも、被害者は使用者に対して民事責任を追及することができる。

※3 「製品品質法」によると、製品に欠陥が存在したことにより人身及び欠陥製品以外のその他の財産(以下「他の財産」という)に損害が生じた場合、製造者は損害賠償責任を負い、販売者の過失によって製品に欠陥が存在することとなり、人身及びその他の財産に損害が生じた場合、販売者は損害賠償責任を負わなければならないとされている(製品品質法第41条1項、第42条1項)。

4 裁判実務上、契約法上の瑕疵担保責任に基づく請求の裁判管轄や請求事項が、権利侵害責任事件の管轄地や請求事項と異なるため、異なる裁判所で異なる判決が下される可能性もあり、訴訟経済を図ることができないという問題も懸念されていた。

5 最高人民法院の研究室によると、2016年から2018年の3年間で全国の法院が審理した高所からの投棄擲物・落下物に関する民事案件は1200件以上で、そのうち約3割について人身損害が問題となっている。また、受理された刑事案件は31件で、そのうち5割以上について人身損害が問題となっている。
http://legal.people.com.cn/n1/2019/0827/c42510-31318564.html

また、高所からの物の投げ捨てに関して、2021年の刑法改正案(十一)では、高所投棄罪が追加された。同罪では、建物又はその他の高所から物を投げ、情状が重大である場合、1年以下の有期懲役、拘役又は保護観察に処し、又は単独で罰金刑を科し、前述の行為があってその他の犯罪を構成する場合は、処罰の重い規定により処罰すると定められている。

6 例えば、目撃者や監視カメラなどにより、落下物が5階あたりで投棄又は墜落と測定され、具体的な侵害者が特定できなかった場合、5階に所在する建物使用者全員が賠償責任を負うことになる。


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